子どもの頃から、親御さんに「よく噛んで食べなさい」と言われていた方は多いかと思います。
よく噛むことは歯の健康につながりますし、満腹中枢を刺激して摂取カロリーを抑える効果もあります。
またよく噛むことにより、がん予防の効果も得られます。
今回はこちらの理由について解説します。
よく噛むことががん予防につながる理由4選
以下の理由により、よく噛むことはがん予防につながるとされています。
・唾液による発がん性物質の毒性軽減
・肥満の防止とインスリン抵抗性の改善
・消化効率の向上と腸内環境の正常化
・細胞の酸化ストレス低減
各項目について詳しく説明します。
唾液による発がん性物質の毒性軽減
よく噛むことの最大の医学的メリットは、唾液の分泌を劇的に促す点にあります。
唾液にはペルオキシダーゼという酵素が含まれていて、これが食物に含まれる発がん性物質を抑制する極めて重要な役割を果たします。
現代の食生活では、食品添加物や農薬、さらには肉や魚を焼いた際に発生する焦げなど、意図せず発がんのリスクを孕んだ物質を摂取しがちです。
ペルオキシダーゼは、これらの物質が体内で生成する活性酸素を分解し、細胞のDNAを傷つける前に毒性を弱める天然の解毒剤として機能します。
同志社大学の研究グループが行った実験では、発がん性物質を唾液に30秒間浸すことで、その毒性が大幅に低下することが科学的に証明されています。
この30秒という時間は、一口につき約30回噛む時間に相当します。
早食いで飲み込んでしまうと、この化学的な解毒プロセスが十分に行われないまま胃や腸へ送られてしまい、粘膜が直接攻撃を受けることになります。
特に食べ物が最初に滞留する口腔内や食道、胃といった消化器系のがん予防において、唾液と食物をしっかり混ぜ合わせる咀嚼は、もっとも手軽で強力な防波壁となります。
また、唾液にはラクトフェリンやリゾチームといった抗菌成分も含まれています。
こちらは口内の雑菌繁殖を抑えることで、慢性的な炎症ががん化へ繋がる連鎖を初期段階で食い止める効果も期待できます。
肥満の防止とインスリン抵抗性の改善
肥満は大腸がんや乳がん、膵臓がんや肝臓がんなど、多くの部位のがんと密接に関連していることが判明しています。
よく噛むことは、脳の視床下部にある満腹中枢を物理的・神経的に刺激し、食べ過ぎを自然に防ぐもっとも効果的なダイエット法です。
咀嚼というリズム運動により、脳内でヒスタミンという物質が分泌され、これが満腹感をもたらすと同時に内臓脂肪の分解を促進します。
また肥満体質を改善することは、体内の慢性炎症を抑え、がん細胞が発生しやすい環境を打破することに直結します。
さらに重要なのが、インスリンとの関係です。
早食いをして短時間で大量の糖質が体に入ると、血糖値が急上昇し、それを下げるために膵臓から大量のインスリンが分泌されます。
このインスリンの過剰な状態が続くと、細胞の増殖を強力に促すインスリン様成長因子(IGF-1)活性が高まってしまいます。
IGF-1は正常な細胞だけでなく、がん細胞の増殖も加速させてしまう性質を持っています。
よく噛んでゆっくりと食べることで、糖の吸収が緩やかになり、インスリンの過剰分泌(インスリン抵抗性の悪化)を抑えることができます。
消化効率の向上と腸内環境の正常化
食物を細かく噛み砕くことは、胃腸への物理的な負担を軽減するだけでなく、化学的な消化・吸収効率を劇的に向上させます。
不十分な咀嚼で大きな塊のまま食べ物が十二指腸や小腸へ送られると、消化酵素が芯まで浸透せず、未消化のタンパク質が腸内で悪玉菌の餌となり、腐敗が進んでしまいます。
この腐敗プロセスで発生するアンモニアや硫化水素、二次胆汁酸などの有害物質は、大腸の粘膜を傷つけ、大腸がんのリスクを高める直接的な要因となります。
“腸は最大の免疫器官”と言われる通り、全身の免疫細胞の約7割が腸管に集中しています。
よく噛んで効率よく消化を行うことで、腸内環境が善玉菌優位の良好な状態に保たれ、免疫システムが正常に機能するようになります。
免疫細胞が活発であれば、日々体内で発生しているがんの芽を早期に発見し、死滅させることが可能です。
細胞の酸化ストレス低減
近年、歯科医学と腫瘍学の境界では、口内の健康状態が全身のがんリスクに影響を与えることが注目されています。
よく噛むことは、唾液による自浄作用を最大化し、歯周病菌などの有害な細菌の繁殖を防ぎます。
近年の研究では、特定の歯周病菌が血流に乗って全身を巡り、大腸がんや食道がんの組織から検出されるなど、口腔内の不衛生ががんの進展に関与していることが示唆されています。
しっかり噛んで唾液を出し、口の中を清潔に保つことは、これらの有害菌が体内の遠隔部位で炎症を引き起こすのを防ぐ全身の衛生管理と言えます。
また、咀嚼運動は顎の骨や周囲の筋肉を通じて脳に強力な感覚刺激を送ります。
この刺激は自律神経のバランスを整え、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制する効果があります。
精神的なストレスは活性酸素を大量に発生させ、DNAを酸化させてがん化を促進しますが、よく噛むことによるリラックス効果は、この酸化ストレスを内側から和らげてくれます。
さらに噛む力が維持されている人は、豊富な噛み応えのある野菜や果物を避けることなく摂取できるため、食事による抗がん作用を十分に享受し続けることができます。
まとめ
がんは非常に恐ろしい疾患であり、発症すると簡単に治療することはできません。
また発見される時期が遅かった場合、全身に転移してしまい、すでに手遅れの状態になってしまうこともあります。
さらに、健康な生活を送る方にも発症のリスクがあるため、今回解説した“よく噛む”という習慣だけでもつけておくことが望ましいです。

