例えば風邪を引いたときなどは、できれば病院に通うことが望ましいですが、そのまま安静にしていても治ることがあります。
しかし虫歯を発症した場合、基本的には歯科クリニックに通院しなければ治りません。
では、なぜ虫歯は自然に治らないのでしょうか?
今回はこちらの点を中心に解説します。
虫歯が自然に治らない理由
風邪などのように、虫歯を放置しても自然に治らない理由として、主に以下の2つが挙げられます。
・エナメル質に自己修復能力がないから
・プラークが原因だから
各項目について詳しく説明します。
エナメル質に自己修復能力がないから
虫歯が自然治癒しない理由としては、まずエナメル質に自己修復能力が存在しないことが挙げられます。
エナメル質は、歯の外側にある硬い組織です。
こちらは、人の身体の中でもっとも硬いと言われています。
またエナメル質が形成される際は、アメロブラストと呼ばれる細胞が働きますが、こちらは歯が生えるときに失われます。
つまり、虫歯を発症したとき、アメロブラストが働いて歯が溶けた部分を修復するといったことは起こり得ないということです。
さらに、成長しきったエナメル質には、骨のように組織を再生する血液も存在しません。
これも、ダメージを受けた部分を修復できない理由です。
一度虫歯で溶けた部分は、基本的にはそのまま溶けた状態になります。
プラークが原因だから
虫歯が自然に治らない原因としては、プラークが原因で発症する疾患だということも挙げられます。
虫歯の原因菌である虫歯菌は、飲食物に含まれる糖分やデンプンなどを分解して酸を生成します。
この酸が歯の表面を溶かすことにより、虫歯が進行していきます。
また虫歯菌が食べカスなどと混ざり、一体となって形成されるのがプラークです。
プラークは、適切なブラッシングを行わない限り、口内から除去されることはありません。
虫歯をそのままにして治そうと考える方は、ブラッシングを適切に行っていない可能性が高いです。
そのため、何もせずに放置していたとしても、プラークの中にある虫歯菌の攻撃は続きます。
ちなみに、口内の虫歯菌をゼロにすることは不可能であるため、飲食の量を減らすなどしてもプラークは必ず形成されます。
虫歯が自然に治るケース
前述した理由により、虫歯が自然に治ることは基本的にありませんが、例外があります。
それは、初期虫歯を発症している場合です。
初期虫歯は、歯の表面のエナメル質が少しずつ溶け始めている状態であり、まだ穴が開いていません。
虫歯になる一歩手前といったイメージです。
またこのような歯については、唾液の再石灰化という作用により、溶け出したミネラル成分が歯に戻り、修復されることがあります。
しかし、何もしなくても完治するというわけではありません。
再石灰化を促すには、さまざまな対策を取る必要があります。
例えば、フッ素入りの歯磨き粉や歯科クリニックでのフッ素塗布には、再石灰化を促し、歯質を強化する効果があります。
さらに毎日の丁寧なブラッシングでプラークを除去するのはもちろんのこと、食事のときによく噛んだり、ガムを噛んだりして唾液の分泌量を増やすことも必要です。
これらの対策が必要であることを考えると、初期虫歯も“自然に治る”とは言い難いです。
虫歯が自然に治ったと勘違いするケース
虫歯が自然に治ったと勘違いするケースとしてよくあるのが、痛みがなくなるというケースです。
虫歯によって歯に穴が開いている場合、そこに飲食物や歯ブラシなどが触れると、ズキッとした痛みを感じます。
こちらは、虫歯が進行すればするほど強くなります。
しかし、重度にまで虫歯が進行したタイミングで、突然嘘のように痛みが消えることがあります。
“虫歯=痛い”というイメージを持っている方は多いため、これによって「放置していたら治った」と勘違いすることがあります。
もちろん、重度の虫歯で痛みがなくなった場合、虫歯が治ったわけではありません。
痛みが消えたのは、虫歯が進行して歯の神経が死滅してしまったからであり、実際はさらに重症化しているサインです。
神経が死滅しても、虫歯菌は歯の奥で増殖を続けます。
さらにその状態を放置していると、歯の根の先に膿が溜まり、歯茎や顔が腫れる原因になります。
最悪の場合、顎の骨にまで炎症が広がる危険性もあります。
ちなみに、重度の虫歯は全身の健康にも悪影響を及ぼします。
感染した毒素が血管を通じて全身に広がり、心臓病や糖尿病といった疾患につながることが考えられます。
これらの疾患を発症した場合、命を落とす危険性もあります。
まとめ
虫歯という疾患について、そこまで危険視していないという方は多いかと思います。
こちらは、単なる歯の疾患と考えている方が多いからです。
しかし、実際は自然に治ることがない上に、重度にまで進行するとさまざまな全身疾患を引き起こします。
ちなみに初期虫歯を患者さん自身で見つけるのは非常に難しいため、虫歯の早期発見・早期治療を行うには、定期的に歯科クリニックに通わなければいけません。