くも膜下出血は、脳の表面を走る動脈にできた脳動脈瘤が破裂し、脳を覆うくも膜と軟膜の間の空間に急速に血液が流れる脳卒中の一種です。
死亡率が5割以上と極めて高く、緊急の治療を要する重篤な疾患です。
今回は、歯周病とこちらのくも膜下出血の関連性について解説します。
歯周病とくも膜下出血の関連性4選
歯周病とくも膜下出血には、以下のような関連性があります。
・歯周病菌による血管内皮の慢性的な炎症と動脈瘤形成
・特異な細菌の直接的な血管破壊
・全身の炎症性サイトカインによる動脈硬化と血圧変動
・免疫システムの暴走による動脈瘤壁の変性と破裂
各項目について詳しく説明します。
歯周病菌による血管内皮の慢性的な炎症と動脈瘤形成
歯周病は単なる口内の炎症にとどまらず、全身の血管系に深刻な悪影響を及ぼす慢性炎症性疾患です。
歯周ポケットの中で増殖した歯周病菌は、微細な傷口から容易に血管内へと侵入します。
これを菌血症と呼びますが、血流に乗った菌やその死骸から出る毒素は、血管の最内層である血管内皮細胞を日常的に刺激し続けます。
この持続的な刺激により、血管内では炎症反応が常態化します。
血管内皮は本来、血液の流れをスムーズにし、血管の柔軟性を保つ重要な役割を担っていますが、慢性的な炎症によってその機能が低下すると、血管壁は脆くなっていきます。
脳の血管は他の部位に比べて壁が薄いという特徴があるため、この炎症によるダメージを強く受けやすい傾向にあります。
結果として、血管壁の一部が弱まり、風船のように膨らむ脳動脈瘤の形成を促進してしまいます。
くも膜下出血の最大の原因はこの動脈瘤の破裂であるため、歯周病による血管内皮への日常的なダメージは、発症の根本的な土壌を作っていると言っても過言ではありません。
特異な細菌の直接的な血管破壊
近年の分子生物学的な研究により、特定の遺伝子を持つ細菌が脳出血のリスクを劇的に高めることが判明しています。
特に注目されているのが、口腔内に存在するミュータンス菌の中でも“cnm遺伝子”を持つ特殊な型です。
この菌は、血管の構造を支えるコラーゲンに結合する特殊なタンパク質を表面に持っています。
通常健康な血管であれば菌が入り込んでも付着しにくいのですが、加齢や高血圧で血管に微細な傷ができると、cnm陽性菌はその傷口のコラーゲンを標的にして強力に付着します。
付着した菌はそこで炎症を増幅させるだけでなく、血管壁を保護・修復する機能を阻害し、血管の組織を直接的に壊死させたり、もろくさせたりする働きをします。
実際、くも膜下出血や脳出血で緊急搬送された患者さんの唾液を調べると、この特定の菌を保有している割合が一般の人よりも有意に高いというデータが存在します。
この菌は歯周病が悪化して出血しやすい歯茎を持つ方ほど血中に取り込まれやすいため、歯周病管理は特定の脳血管破壊因子を体内に循環させないための重要な防衛策となります。
全身の炎症性サイトカインによる動脈硬化と血圧変動
歯周病が進行すると、歯茎の組織ではサイトカインと呼ばれる免疫物質が過剰に作られます。
代表的なものにTNF-αやIL-6がありますが、これらは炎症を伝達する物質として血流に乗り、全身を駆け巡ります。
またこの炎症性サイトカインは、肝臓で炎症反応の指標となるCRPの産生を促し、全身の動脈硬化を加速させる強力なアクセルとなります。
動脈硬化が進んだ血管は、ホースが古くなって硬くなるのと同じで、血液を送り出す際の圧力の変化を吸収できなくなります。
くも膜下出血を引き起こす脳動脈瘤の破裂は、怒りや排便時のいきみ、過度なストレスなどによる急激な血圧上昇が引き金となることがほとんどです。
歯周病によって血管が硬化し、さらに血圧が不安定な状態にあることは、動脈瘤に常に過度なプレッシャーをかけている状態を意味します。
さらに歯周病による慢性炎症はインスリンの働きを悪くし、糖尿病を悪化させることもわかっています。
糖尿病もまた血管をボロボロにする大きな要因であるため、歯周病を起点とした炎症の連鎖が、巡り巡って脳動脈瘤の破裂リスクを幾重にも積み上げてしまいます。
免疫システムの暴走による動脈瘤癖の変性と破裂
くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤がなぜ破裂するのかという点において、歯周病菌に対する体の免疫反応が関わっているという説が有力視されています。
脳動脈瘤自体は成人の数%が持っていると言われていますが、そのすべてが破裂するわけではありません。
破裂するかどうかの分かれ目は、動脈瘤の壁がどれだけ薄く変性してしまうかにあります。
歯周病菌が血中に存在し続けると、体内の免疫細胞が常に刺激を受け、活性化した状態になります。
この活性化した免疫細胞は、敵を攻撃するためにマトリックスメタロプロテアーゼという酵素を放出します。
この酵素は本来、組織の入れ替えに必要なものですが、過剰に分泌されると血管壁を構成する大事な組織まで分解し始めてしまいます。
動脈瘤の壁でこの酵素が働くと、壁はどんどん薄くなり、最終的に耐えきれなくなって破裂に至ります。
つまり、歯周病があることで体内の免疫バランスが組織を壊す方向に傾いてしまい、それが脳動脈瘤の最終的な破裂を後押ししてしまうということです。
まとめ
くも膜下出血はおそろしい疾患であり、いまだに年間何人もの方がこちらの疾患によって命を落としています。
そのため、可能な限り発症のリスクを抑えるのが急務であり、その中には歯周病の発症を防ぐことも含まれています。
また歯周病を防ぐことは、くも膜下出血だけでなくその他のさまざまな疾患のリスクを抑えることにもつながります。

