唾液が持つ作用として有名なのは、口内を洗い流す自浄作用や、細菌などに対する抗菌作用です。
また他にもいくつもの作用を持っていて、その中の一つに“緩衝作用”というものがあります。
今回は、こちらの緩衝作用について理解するために必要な4つの項目について、それぞれ詳しく解説します。
緩衝作用の基本概念とメカニズム
口の中は通常、pH6.7〜7.3前後の弱酸性から中性に保たれています。
しかし食事が始まると、食べ物自体に含まれる酸や、口の中の細菌が糖分を分解して作り出す酸によって、環境は一気に酸性へと傾きます。
口の中のpHが臨界pHと呼ばれる5.5以下に低下すると、歯の表面を覆っているエナメル質からカルシウムやリンなどのミネラル成分が溶け出し始めます。
この状態が長く続くことが虫歯の直接的な原因となります。
ここで重要な役割を果たすのが、唾液の緩衝作用です。
緩衝作用とは、外部から酸やアルカリが加わったときに、その変化を和らげて一定のpHを維持しようとする化学的な性質を指します。
唾液が豊富に分泌されることで、口の中に広がった酸を文字通り洗い流すと同時に、唾液中に含まれる特定の成分が酸と結合してその働きを弱めます。
これにより、酸性になった口の中をわずか数十分~1時間程度で安全な中性付近へと押し戻すことができます。
この働きが正常に機能しているおかげで、私たちは毎日の食事を楽しみながらも、歯が溶け続けるリスクから守られているのです。
唾液に含まれている主な緩衝成分
唾液が持つ緩衝作用は、主にその中に溶け込んでいる化学成分によって成り立っています。その中でも最も中心的な役割を担っているのが重炭酸塩(炭酸水素イオン)です。
重炭酸塩は、口の中に酸が大量に供給されると、それらを素早く取り込んで炭酸へと変化し、最終的には二酸化炭素と水に分解されることで酸を消失させます。
この重炭酸塩による緩衝システムは非常に強力であり、唾液の分泌量が増えれば増えるほど、その濃度も高まるという特徴を持っています。
そのため、食事中などによく噛んで唾液を出しているときほど、高い効果を発揮します。
もう一つの重要な成分が、“リン酸塩”です。
リン酸塩は、唾液の分泌量が少ないときや、軽度の酸性化に対して主に機能する緩衝成分です。
重炭酸塩ほどの爆発力はありませんが、口の中が静かな状態のときにpHが大きく乱れるのを防ぐ基礎的なバリアとして役立っています。
さらに、唾液中の一部のタンパク質も酸と結合する能力を持っていて、これら複数の成分がチームワークを発揮することで、口腔pHバランスが厳密にコントロールされています。
虫歯予防における役割
緩衝作用が虫歯予防において決定的な意味を持つのは、歯の脱灰を食い止め、再石灰化を促すスイッチの役目を果たすからです。
口の中が酸性に傾くと歯の成分が溶け出しますが、緩衝作用によってpHが5.5以上に回復すると、脱灰の進行がピタッと止まります。
そして中性に戻った口の中では、唾液中に豊富に含まれているミネラル成分が、傷ついたエナメル質の表面に再び結晶として戻る再石灰化のプロセスがスタートします。
私たちの口内では、食事のたびにこの脱灰と再石灰化が繰り返されています。
緩衝作用が強く、pHがすぐに中性に戻る人の場合、歯が溶けている時間が短く、修復されている時間が長くなるため、虫歯には滅多になりません。
しかし緩衝作用が弱い人の場合は、一度酸性になった口内がなかなか中性に戻らず、ダラダラと歯が溶け続けることになります。
つまり、緩衝作用は口の中の危険な時間を最短に抑え、歯が自ら治癒するための安全な時間を最大限に引き伸ばすという、虫歯防御の最前線として機能しているということです。
唾液の緩衝能を高める具体的な方法
唾液が持つ緩衝作用の強さには個人差がありますが、日々の生活習慣を意識することで、その働きを最大限に高めたりサポートしたりすることが可能です。
もっとも基本的かつ効果的なアプローチは、唾液の分泌量を増やすことです。
緩衝作用の主役である重炭酸塩は、唾液がたくさん出ているときほど濃度が高くなります。
食事の際は意識して食事の噛み応えを意識し、よく噛んで食べることで、口の中へ一気に質の高い唾液を供給することができます。
また水分補給をこまめに行い、体内が乾かないようにすることも、良質な唾液を作る基礎となります。
さらに、食後にキシリトールやリカルデントが配合されたガムを噛むことも非常に有効です。
ガムを噛む行為そのものが味覚と咀嚼の刺激となり、強力な緩衝能を持った唾液の分泌を強力に促します。
その他、間食の回数を減らし、規則正しい食生活を心がけることも大切です。
いくら緩衝能が高くても、常に食べ物が口に入っている状態では、唾液の回復スピードが追いつかなくなってしまいます。
規則正しい食事と積極的な咀嚼によって、唾液という天然のバリア機能を常に万全な状態に維持することが、堅固な虫歯予防につながります。
まとめ
唾液は冒頭でも触れた自浄作用、抗菌作用だけでなく、緩衝作用を発揮してくれることからも、虫歯予防には欠かせないものです。
そのため、唾液の量が減少している自覚がある方は、早急に改善しなければいけません。
歯科クリニックでは、ドライマウスなどの疾患に対応してくれるケースもあるため、気になる場合は一度相談してみましょう。

